(2016/8/6 「NHK 日本語発音アクセント新辞典」の発売により、加筆修正しました)

新年度、アナウンスや声優の勉強をする人もいるでしょうね。その時に絶対必要になるのがアクセント辞典。NHK出版と三省堂、2種類ありますが、買う時にどちらがいいのか迷うでしょうね。そこで、ふたつとも持ってるボクがそれぞれの特徴をまとめておきます。

NHK出版と三省堂のアクセント辞典、その目的の違い

1998年に改訂され、2016年の改訂まで発売されていた、NHK出版の「NHK日本語発音アクセント辞典 新版」のまえがきには<放送でもっとも広く使われているアクセントを土台にし,かつ多くの視聴者からも支持されていると思われるアクセントを基準にしています。>とあります。放送で使う、ということを念頭に置いた辞典です。

それを引き継いだ「NHK 日本語発音アクセント新辞典」のまえがきでは<今まではあまり掲載してこなかった日本・外国語地名や,アクセントに迷う長い複合語(「迷惑防止条例違反」「特定非営利活動法人」など)も,数多く採用しました。>とあります。このため、辞典に載っている言葉が、69000語から75000語に増えました。

そして、三省堂の「新明解日本語アクセント辞典」の初版の序では、NHK日本語アクセント辞典を<東京アクセントに相当通じた人にしてはじめて使いこなせる辞典>とした上で<どんな人でも使用できることをモットー>としています。

つまり、NHK出版は共通語のアクセント、三省堂は標準的な東京のアクセントに重きを置いています。共通語については「NHK日本語発音アクセント辞典 新版」の付録にある「共通語の発音とアクセント」の中に<上田万年氏は東京で開かれた全国郡視学集会で、「帝国語の標準は、現在の東京に於て、教育ある社会に普通に行はれて居ります言葉をいふのでございます」と断言している>とあるので、共通語も東京のアクセントと考えていいでしょう。

ここからしばらくは、以前のアクセント辞典を比べた違いです

あれ…? どっちもほぼ一緒じゃないですか。じゃ、何が違うのか。それは、三省堂のアクセント辞典は「標準的な東京アクセント」を調べやすいということだ、とボクは思うんです。自分が標準語のアクセントを知らないとした時、三省堂のアクセント辞典の方が少し分かりやすいんです。

例えば「話す」という言葉のアクセントを調べたい時、NHK出版は「ハナス」しか載ってませんが、三省堂は「ハナス」に続いて「ハナサナイ」「ハナソー」「ハナシマス」「ハナシテ」「ハナセバ」「ハナセ」と、活用した時のアクセントまで載っているんです。

もちろん、どちらのアクセント辞典でも活用した場合を調べることはできます。しかし、NHK出版のアクセント辞典は活用したアクセントを本編で調べることはできないんです。

ですから、ボクはどっちのアクセント辞典を買ったらいいのかについては、こう言います。「どっちも一緒だよ。ただ、三省堂の方が活用したアクセントを調べるのは分かりやすい。でも、放送でしゃべるということを目標にするなら、放送業界が標準語のガイドラインとしているNHK出版の方がいいかもね」

前に「ボクがアクセント辞典のアプリを買えない理由」というタイトルでも書いたんですが、現場でアクセントに迷うのは活用した時なんです。なので、自分が持ってるアクセント辞典で活用した場合のアクセントが調べられるようにしておいた方がいいですよ。

決定的な違いは、アクセント表記

NHK日本語発音アクセント辞典 新版」と「新明解日本語アクセント辞典」の違いは、活用したアクセントを調べるのが分かりやすいかどうか、でした。しかし「NHK 日本語発音アクセント新辞典」になって動詞・形容詞の活用形が本編に掲載されるようになったので、この差はなくなりました。

大きく違うのは「NHK 日本語発音アクセント新辞典」が採用した新しいアクセント記号です。「棒カギ式」から「下がり目式」に変更されました。

これについて「NHK 日本語発音アクセント新辞典」のまえがきには<これによって,アクセントをさらに正確に書き表すことができるようになり,また単語を文の中で実際に発音するときに,より自然な形で音調を実現しやすくなっています。>と書いてあります。

放送業界を目指すなら、NHK出版のアクセント辞典を

下がり目式棒カギ式のアクセント表記に慣れてしまうと、棒カギ式下がり目式のアクセント表記を示された時に戸惑うかもしれません。なにしろ、棒カギ式下がり目式のアクセント表記は2016年にお目見えしたものですから。

(この段落、棒カギ式と下がり目式の表記が逆になっていました。棒カギ式に慣れると下がり目式を見た時に戸惑う、という、現表記が正しいです)

放送業界が標準語のガイドラインとしているのはNHK出版のアクセント辞典です。放送業界を目指す人は、NHK出版のアクセント辞典を持っていた方がいいでしょう。ボクが声優の専門学校で教えていた時には、三省堂のアクセント辞典を使っている人が多かったです。